7孔尺八を入手する前から自分で尺八譜を作った(作曲ではありません)、と前回書きました。尺八という楽器に興味を持って入門・購入を検討されている方もおられると思いますので、ここでは 尺八の楽譜を知っている範囲内で書いてみたいと思います。
私がカルチャーで購入した教則本(テキスト)は初心者向けとしては尺八界で大変に評価の高いものです。そして版が二つあると前に書きました。
尺八譜の原型は お寺のお坊さんが書いた毛筆の覚え書き と聞いたことがあります。江戸時代そしてそれよりも前のことです。西洋の音楽の影響が皆無の時代のことですからそんなものだったのでしょう。そして時代が進み、散在している尺八メモを整理する人が現れ(黒沢琴古とか)、そして明治維新後は一般の人も吹くようになったので師弟関係が現れ、楽譜の形態が出来上がっていったのでしょう。
尺八譜は流派ごとに表現形式が違っていて、その系統は大きく二つあります。琴古流と都山流の二つです。私は都山流のテキストを使ったので琴古流の楽譜は読むことが出来ませんが、その外観は “ひらがな毛筆縦書き” 、“経典風” と表現できます。琴古流は江戸時代からの虚無僧尺八の伝統を受け継いでいるのでその影響でしょう。おそらく洋楽の楽譜で表示される 小節 の概念は無く、楽譜を読むときに必要な情報、テンポ・音価(音の長さ)などはあることはあるんでしょうが読み辛いと思われます。またそれらの情報は重要ではなかったのでしょうね。虚無僧の尺八は自由テンポ(ルバート)で独奏だったでしょうから。
都山流の楽譜は明治に入ってから開祖 中尾都山 が開発したもので西洋音楽の影響をかなり強く受けたと感じられます。テキストでの説明も記号・名称こそ違えども西洋音楽の解説と言ってもいいぐらいですので五線譜を知っている方ならなじみやすいとも言えます。テンポ・音価もみ取れます。五線譜で使われる音楽記号(反復記号・DS・Codaなど)も相当使われます。ただし、西洋音楽の概念は取り込んだものの、やはり伝統的な楽譜形式を受け継いでおり(中尾都山は若い頃虚無僧修行をしたそうです)、縦書きで音価を表す記号なども違います。私の印象を率直に言うと「日本映画に付けたローマ字字幕」(ローマ字:日本語なんだけどアルファベットで表記)とも言えます。ローマ字字幕はわざわざ判りにくいアルファベットで日本語を書いたのです。
私は尺八を始めてから楽譜集を2冊買い求めました。ひとつは1981年の発行で 「尺八で唄うニューヒット歌謡」(磯野茶山編)、もう一つはそれよりもずっと新しいもので「尺八で楽しむヒット曲集」(広瀬一憧 編)です。前者は都山流の楽譜様式そのもの。小節イメージのある縦書き歌詞付、後者は五線譜の下に琴古流・都山流の音符(ロツレチハ)を併記した形式のものです。五線譜ですので当然横書きです。市販の尺八譜でも流派形式をとらない形のものがあるということですね。私が自作したとしても特異なことではなく、いろんな人がそれぞれ工夫しているのだと思います。
楽譜の表現形式は演奏する音楽ジャンルで向き・不向きがあると感じます。従来の楽譜(琴古流・都山流)では洋楽演奏は向かないと個人的には感じますが、我慢すればそれで演奏することも出来るでしょう。利用者の判断ということになります。このほか民謡などで使わる表示形式もあります。これは「五線譜」と呼ばれていますね。洋楽の楽譜と同名なので要注意です。