尺八トーシロー奮闘記(その15 ~従来の尺八譜は不便!!<2>~)

  7孔尺八を入手する前から自分で尺八譜を作った(作曲ではありません)、と前回書きました。尺八という楽器に興味を持って入門・購入を検討されている方もおられると思いますので、ここでは 尺八の楽譜を知っている範囲内で書いてみたいと思います。

  私がカルチャーで購入した教則本(テキスト)は初心者向けとしては尺八界で大変に評価の高いものです。そして版が二つあると前に書きました。

  尺八譜の原型は お寺のお坊さんが書いた毛筆の覚え書き と聞いたことがあります。江戸時代そしてそれよりも前のことです。西洋の音楽の影響が皆無の時代のことですからそんなものだったのでしょう。そして時代が進み、散在している尺八メモを整理する人が現れ(黒沢琴古とか)、そして明治維新後は一般の人も吹くようになったので師弟関係が現れ、楽譜の形態が出来上がっていったのでしょう。

  尺八譜は流派ごとに表現形式が違っていて、その系統は大きく二つあります。琴古流と都山流の二つです。私は都山流のテキストを使ったので琴古流の楽譜は読むことが出来ませんが、その外観は “ひらがな毛筆縦書き” 、“経典風” と表現できます。琴古流は江戸時代からの虚無僧尺八の伝統を受け継いでいるのでその影響でしょう。おそらく洋楽の楽譜で表示される 小節 の概念は無く、楽譜を読むときに必要な情報、テンポ・音価(音の長さ)などはあることはあるんでしょうが読み辛いと思われます。またそれらの情報は重要ではなかったのでしょうね。虚無僧の尺八は自由テンポ(ルバート)で独奏だったでしょうから。

  都山流の楽譜は明治に入ってから開祖 中尾都山 が開発したもので西洋音楽の影響をかなり強く受けたと感じられます。テキストでの説明も記号・名称こそ違えども西洋音楽の解説と言ってもいいぐらいですので五線譜を知っている方ならなじみやすいとも言えます。テンポ・音価もみ取れます。五線譜で使われる音楽記号(反復記号・DS・Codaなど)も相当使われます。ただし、西洋音楽の概念は取り込んだものの、やはり伝統的な楽譜形式を受け継いでおり(中尾都山は若い頃虚無僧修行をしたそうです)、縦書きで音価を表す記号なども違います。私の印象を率直に言うと「日本映画に付けたローマ字字幕」(ローマ字:日本語なんだけどアルファベットで表記)とも言えます。ローマ字字幕はわざわざ判りにくいアルファベットで日本語を書いたのです。

  私は尺八を始めてから楽譜集を2冊買い求めました。ひとつは1981年の発行で 「尺八で唄うニューヒット歌謡」(磯野茶山編)、もう一つはそれよりもずっと新しいもので「尺八で楽しむヒット曲集」(広瀬一憧 編)です。前者は都山流の楽譜様式そのもの。小節イメージのある縦書き歌詞付、後者は五線譜の下に琴古流・都山流の音符(ロツレチハ)を併記した形式のものです。五線譜ですので当然横書きです。市販の尺八譜でも流派形式をとらない形のものがあるということですね。私が自作したとしても特異なことではなく、いろんな人がそれぞれ工夫しているのだと思います。

  楽譜の表現形式は演奏する音楽ジャンルで向き・不向きがあると感じます。従来の楽譜(琴古流・都山流)では洋楽演奏は向かないと個人的には感じますが、我慢すればそれで演奏することも出来るでしょう。利用者の判断ということになります。このほか民謡などで使わる表示形式もあります。これは「五線譜」と呼ばれていますね。洋楽の楽譜と同名なので要注意です。
  


尺八トーシロー奮闘記(その14 ~従来の尺八譜は不便!!~)

  5孔尺八の音の出し難さの他に私が疑問に感じていたこと、それは尺八のテキストに書かれている「尺八の譜面」です。尺八は流派ごとに楽譜が異なるのでテキストが2版あるということは前にも書きました。尺八未経験の私が入会したカルチャーの担当講師は 都山流 の師範でしたので都山流の版を購入しました。

  尺八の楽譜は楽譜分類的には「奏法譜(タブラチュア)」ということになるでしょう。指使いは具体的に指示されているがその音程は楽器・チューニング(調律)が決まらないと確定しないという類の楽譜表記です。音楽全般で使われている 五線譜 はどんな楽器を使おうが、その楽器がどのようにチューニングされていようが音(程)は原則決まっています。
  
  私は五線譜の他 弦楽器(リュート・ギター・ウクレレなどのフレット系)で使用されるタブラチュアと長いこと付き合ってきました。なので、私にとっては尺八譜は分かり辛くその使用には疑問が湧いたのです。

  試行錯誤を繰り返し、私が7孔尺八にたどり着くより前の 2020年12月 の時点ではもう尺八譜を自分で作成し、それを使って演奏することが出来るようになっていました。都山流の楽譜は分かり辛く(素早く読めないということ)、尺八で洋楽を吹こうとしている私にはそれを使っていては限界が来ると強く感じたからなんです。都山流尺八譜を使うんだったら 五線譜の方がまだまし というふうに思っていました。


尺八トーシロー奮闘記(その13~7孔尺八を手に入れた~)

(前回からのつづき)

  7孔尺八を入手しました。「悠」は製品としては5孔だけの販売なのですが、後作業で孔を2つ追加で開けたものです。左手は小指を除いて3本(親指は裏孔)、右指は中指は除いて3本使います。楽器の前面に6つの穴が開いています。右手の小指の位置は特に指定しなかったのですが私にはちょうど良い位置に開いていました。
  日本で最大の尺八工房の社長さんは全体に占める7孔尺八の比率を、『10数%、2割は超えない、またこれ以上増えないでしょう』と言っていました(この社長さんのブログは尺八界では有名です)。まあ、使う人はいるが少数派ということなんでしょう。

  カルチャーの先生に入手した楽器を見せ、カルチャーを退会する旨お知らせしました。そのカルチャーの女性講師は 東京藝大邦楽科大学院(修士課程)卒 で 某流派における師範試験首席合格、民謡尺八の全国大会でもグランプリをとるなど若手の有望株です。その先生に7孔尺八について伺ったところ、『持ってもいなくて、吹いたこともありません』ということでした。2021年1月のことです。カルチャーに入会してからほぼ1年が経過していますが、2020年はコロナが急激に拡大していった年で、そのため休講なども多くあり、実質1年に満たない尺八教室体験でありました。この後私は独習で7孔尺八を使っていくこととなります。
  
(つづく)
  
 


尺八トーシロー奮闘記(その12~微(かす)かな光明が~)

(前回からのつづき)

  テキストの一番最後に 「多孔尺八」というページがあり、5孔より孔数の多い尺八もあるのだということが紹介されています。効用として『現代曲などで半音を含んだ複雑な曲においてはそのフルート的な能力を発揮します。』、『これは三曲合奏、古典本曲、従来の尺八を想定して作られた曲などには向きません』と書かれています。7孔・8孔・9孔の3種類が紹介されています。

  これだ~!! と思いました。私は尺八で洋楽を吹こうとしているのでテキストが述べている 多孔の欠点 は私には関係ない事です。70年以上生きていて、古典本曲は聴いたことがないし、話題さえ聞いたことがありませんでした。情報がないということは私の人生の中ではなかったものなのです。私の目の前にあるこの楽器は、フルート・リコーダー・オカリナなどと同列の一つの楽器です。
  
  7孔尺八は、私がどうしても正確な音を出せない ッ(E♭)ハ(B♭)が孔の微開、メリなしで実現するというのですからこれはぜひとも手に入れたいと思いました。どこで、どうやったら手に入れることが出来るのだろうか。

  この時点で私が持っている尺八は 樹脂製の 「悠」(5孔) と、フリマ(メルカリ)で手に入れた竹製の8寸管(5孔)の2本だけです。尺八は小売りがありません。工房も近くにはありませんのでネットで色々と調べました。通販でも7孔は新品としては販売はされていませんね。標準品ではないのです。ただ5孔に追加で孔を開けるという作業は多くの工房が請けているようでした。でも、「悠」は樹脂成形で作られたものですから竹を扱う尺八工房では受け付けないでしょう。竹製5孔(8寸)を1本持っているのですが、それは大変古いもので、中継ぎが緩んできてそのうち息漏れが発生しそうだし、チ(A)のピッチが高くて(これは古い尺八に見られる伝統的な調律)今更改造という気にはなれません。
  
  時間をかけてネットを探し回りました。で、ついに嬉しいページを発見しました。

  東海地方のある和楽器店(尺八工房ではありません)が「悠」を7孔にして販売していたのです。その店の社長さんが自ら穴明け作業をしているようでした。早速メールを送り注文を入れました。
  
(つづく)
  
 


尺八トーシロー奮闘記(その11~壁にぶつかる3~)

  難しく不便な5孔尺八ではありますが「半音メリ」は練習すればまあまあ(完璧な音でないとしても)出来るようになるかもしれないという感じはあります。
  問題はその次です。テキストでは「半音メリ」の次に「一音メリ」というのが出来てきます。これは何でしょう。テキストにはこうあります。

  『半音を正確に鳴らすには高度の技術を要します。閉じた状態から指孔の
   上縁に指を押し付けて指先の肉をゆがめて隙間を作ります。同時にメリ
   ますが、かなりメリ込まないと音は高めになってしまいます。』

う~ん と唸なってしまうような記述です。これは既に述べたように尺八が5孔であることからくる宿命ですね。

  ピアノをイメージしてください。白鍵と黒鍵があります。5孔尺八の孔を白鍵とすると尺八はピアノ・イメージでこう書くことが出来ます。

  ピアノ(西洋音楽)では白鍵の間に 半音(黒鍵)が一つあります。
一方、尺八は孔と孔の間に半音が二つあるところがあります。5孔で鳴らそうとした場合,孔の半開だけでは済まないというのがこの図から分かります。でも特殊な音ではないのです。12音(邦楽でも12音~雅楽音名~)の中ですのでこの音を出せなければ演奏は成り立たないのです。

  私の場合、半音メリは不十分ながら音が出せて(正しい音程とはなっていないが)曲の演奏もなんとか出来ました(音痴演奏かもしれないけど)。ところがこの 一音メリ は音すら出せません。孔の微開の感覚もよく分からないし、メリ込んでも音が下がりません。何日も何日も繰り返して練習したのですがどうにも出来ません。私は音楽的能力は平均的ですが、楽器好きなのでその楽器を始めると毎日のよう集中して練習します。凝るタイプですからそのうち下手なりに音階程度は出来るようになるんじゃないこと思っていました。ところが、ここへきてその思い込みは打ち砕かれました。尺八はとんでもない楽器で、私はとんでもない楽器に手を出してしまったと気づいたんです。

  先への展望は全く出てきません。窒息状態に陥ってしまいました。

出せない音は ッ(E♭)と ㇵ(B♭)です。

  この時点で私が持っている楽器は 1尺8寸 だけです。
  テキストには 調 により適した長さがあり、1尺8寸だと C(平行調~短調~はAm) F(Dm) B♭(Gm) E♭(Cm) だと書いてあります。五線譜のト音記号の横にある調号(#、♭)で言うと、C(Am)の調号なしからE♭(Cm)の♭♭♭までで、すべてフラットです。ッ(E♭)と ハ(B♭)の音が出せないと吹ける曲がほとんどないということになっちゃいます。
  長さの違う尺八を購入しないとけないんでしょか。でも、ッ と ハ の運指で音を出せないのだから長さを変えても根本的な解決にはならないですね。
  古希を過ぎてからの私の尺八へのチャレンジもここまでなのかあ~!?。
  
  
 
  



  • 管理人プロフィール

    マック山屋 ( 山屋 真 )

    当倶楽部の 幹事 兼 ブログ管理人 の プロフィール

    千葉県柏市在住40年、青森県・津軽地方の出身で、2017年に ” めでたく ” 「 古希 」 となりました。ようするに「おじいちゃん」です。

    元 キワヤ・ウクレレスクール講師(基礎科、本科)。